アメリカ石炭業界~次世代を救うエネルギー資源をめぐって
- Resisted date2008.10.31 |
- Movie Time12:23 |
この番組のテーマは「石炭液化油」です。様々な人へのインタビュー、議会での論争の様子を見せながら問題点を暴いていく構成の、とても見応えのあるドキュメンタリーです。
石炭液化油とは、石炭を液化し、石油と同じように使えるようにした油です。ただ、多くの問題点があります。最も大きな問題点はCO2排出量の問題。石炭液化油はCO2の削減に貢献しないばかりか、逆にCO2を増加させる可能性があるのです。石炭業界は「1ガロン(約3.8リットル)の液体炭素は従来のガソリン(石油)1ガロンに含まれる炭素量と同じ」と主張していますが、最終生成物ではそうだとしても、処理過程で多くのCO2を排出しています。それは「せっかくプリウスを運転しても石炭液化油で満タンにしたら、ガソリンで燃費の悪いハマーを運転するのと同じCO2を排出することになる」ほど。これでは温暖化対策に逆行してしまいます。
税金の無駄遣いの問題も指摘されます。多くのお金をつぎ込んで施設を作っても意味がない、とのこと。それよりも「石炭で電力を作る時に二酸化炭素を取り込める発電所を併設し、その電力をハイブリッド車に注入して使えるようにすればいい」という主張です。さらに液体石炭プラントの第一号が建設される予定のペンシルバニア州の街からのレポートもあります。この土地には8つの石炭発電所と3つの刑務所、2つの埋め立て地があり「長年、石炭企業の活動によって荒廃していきました。さらにプラントを作ったら大打撃を受ける」と地元の住民は話し、特に水や空気の汚染を懸念しています。
そこまでしてなぜ、石炭液化油を作りたいのか?バイオマスなどの代替エネルギーのほうが、よほど将来性があるはずです。その答えの鍵となるのは石炭業界と一部の議員の距離。議員の中には石炭、石油業界と距離が近い議員がたくさんいるのです。多くの専門家の反対意見と提案とともに終わるドキュメンタリーの最後は、こんな言葉で締めくくられています。
「今必要なものは、アメリカと世界のために新しいエネルギー資源の未来図を描ける、強力なリーダーシップなのです」。
ぜひ番組をじっくり見ながら、問題の本質をつかんでください。
【執筆】阿久津 美穂(Slow Media Works)
http://www.slowmediaworks.net
<関連webサイト>
● このドキュメンタリー制作したNRDCのキャンペーンサイト(英語)。石炭液化油の問題が詳しく紹介されています。
http://www.nrdc.org/energy/dirtyfuels.asp