1700万人を支える水がめの保全

forests21stcentury301.jpg環境破壊、生物多様性の減少、水不足、貧困…。世界は様々な課題を抱えていますが、これらはそれぞれ独立して存在するものではなく、互いに連関しあい、影響しあっています。つまり、いずれかの課題だけに注目し、その解決のみに取り組むことは、局所的・短期的な成果を生み出せても、根本的な解決にはつながりにくいのです。

forests21stcentury302.jpgこちらの動画「Forests for 21st Century (Part 3)」では、森林の減少、水不足の危機、地元の貧困という複雑で深刻な課題に対し、中長期的な視野にたって持続可能な解決に取り組んだ事例を紹介しています。中国の北京の北東部にある密雲地方の貯水池は、1700万人の北京市民の貴重な「水がめ」。世界有数の大都市に生活用水を供給するこの地域では、1970年代から森林保護に取り組み、伐木規制や植林を実施してきました。これにより森林の面積は増え、表面上、この課題は解決に向かっているかに見えましたが、環境保全や生物多様性に照らした適切な管理が行われなかったため、森林の力はすっかり枯渇し、地元住民は貧しい生活を余儀なくされたまま…。根本的な課題の解決にはつながりませんでした。そこで、「国際自然保護連合(IUCN)」は地元の環境保護団体と協力し、森林復興と地元の経済的発展とを実現する持続可能な森林づくりに取り組みました。森林に健全な生態系を取り戻すため、間伐を行い、森林マネジメントの手法を地元に伝授。地元の人々はこれに従って森林を管理しながら、生活に必要な薪・漢方薬・食糧を採ったり、観光産業に力を入れることができるようになりました。森林は自らの機能を回復し、地元の貧困問題も解消されつつあるそうです。

forests21stcentury303.jpgこの事例は、特定の対象に犠牲を強いるのではなく、地球環境と人類とが共生できる方策を考え実行することこそ、真に持続可能な環境づくりにつながることを示しています。このためには、各課題に「対症療法」のように対応するのではなく、一見相反するようにみえるそれぞれの課題を深く掘り下げ、真因を見抜き、根本的な課題の解決に向けて取り組むことも大切なポイントといえそうですね。

執筆:松岡由希子

[関連サイト]
世界森林景観再生パートナーシップ(GPFLR)の公式ウェブサイト(英)
森林保護に取り組む国際機関「世界森林景観再生パートナーシップ」の公式ウェブサイトです。GPGLRの活動実績や関連資料が掲載されています。
http://www.ideastransformlandscapes.org/